2021年6月に発売されたVRヘッドセット「VIVE Focus 3」は、一体型VRヘッドセットでありながら、現行のVRヘッドセットの多くを上回る5K相当の解像度を実現したスペックが大いに話題となりました。しかしながら、130,900円(税込)という価格と、前世代機である「VIVE Focus」「VIVE Focus Plus」がイマイチパッとしなかったこともあり、気になってはいるものの、手をこまねいている方も多いかと思われます。
そこで当記事では、VIVE Focus 3の主だった特徴を5つ取り上げ、それぞれの特徴から活用できるシーンを紹介します。
目次
デバイス概要
まずはVIVE Focus 3の主なスペックをご紹介します。比較対象として、Oculus Quest 2のスペックも併記します。
VIVE Focus 3 |
Oculus Quest 2 |
|
解像度 |
片眼 2448 x 2448 ピクセル |
片眼 1832 x 1920 ピクセル |
スクリーン |
デュアル2.88インチLCDパネル |
高速スイッチLCDディスプレイ |
リフレッシュレート |
最大90Hz |
最大120Hz |
視野角 |
120度 |
110度 |
トラッキング方式 |
インサイドアウト方式、6DoF |
インサイドアウト方式、6DoF |
SoC |
Snapdragon XR2 |
Snapdragon XR2 |
コントローラー |
充電式 |
電池式 |
バッテリー |
約2時間 |
約2~3時間 |
なにより目を引くのはその解像度でしょう。片眼2448x2448ピクセルという数値は5K相当で、現行のVRヘッドセットの中でもトップクラスです。リフレッシュレートについてはOculus Quest 2が優位、視野角はわずかにVIVE Focus 3が優位ですが、体感では大きな差には感じないレベルです。また、コントローラーは充電式か電池式かで差がありますが、コントローラー形状はどちらもOculus Touchに近しいものとなっています(VIVE Focus 3のほうがグリップ部分が長め)。
総じてスペック上は、Oculus Quest 2と比べると画質が大きく抜きん出ています。では、カタログスペックだけではない「実際の使い心地」はどうなのか。以下では、VIVE Focus 3の特徴を5つ記していきます。
特徴1:5Kかつワイヤレス
上記の通り、VIVE Focus 3は5K相当という現行最高クラスの高解像度が特徴です。これほどの解像度となると、スクリーンドア現象(※映像に網目のようなものが見える現象)は皆無に等しく、「ほとんど肉眼」と言っていいほど非常に鮮明な映像が体験できます。そして、VIVE Focus 3は一体型VRヘッドセットなので、VRヘッドセット単独で動作します。PCとケーブルなどで結線せずとも動作するため、運用上のわずらわしさが少ないのが特徴です。
この特性が特に活かされるのが映像コンテンツの観賞です。VR空間上のオブジェクトをじっくりと見ることはもちろん、YouTubeやストレージ保存の動画を見ることにも向いています。また、ワイヤレスゆえに場所を選ばないため、お気に入りの椅子やベッドの上で、自由な姿勢で映像観賞を楽しむことができます。映像体験型コンテンツはもちろん、VR空間内の巨大なスクリーンで好きな映画をゆったりと楽しむ、そんな運用にも向いています。
特徴2:とても快適な装着感
VRヘッドセットは、ディスプレイが収められた前面部が重くなる傾向があります。その重さはそのまま顔面への負荷となるため、長時間装着していると顔面が痛くなるなどの症状が発生しがちです。しかしVIVE Focus 3は、後頭部に設置されたバッテリーがカウンターウエイトとしても機能し、前後の重心バランスがおよそ50:50になるような構造です。
上部のベルトから吊り下げてみると、写真のような状態でバランスが取れます。この親指の部分がちょうど頭頂部の位置にくるイメージです。
比較として、Oculus Quest 2(+Eliteストラップ)でも同じような持ち方をしてみた写真がこちら。VIVE Focus 3と比べて、少しだけ前寄りでバランスが取れている(=少しだけフロントヘビーである)ことがわかるかと思います。
この絶妙な重心バランス設計に加え、後頭部のリアクッションは絶妙な反発加減となっており、上質なソファのように心地よく後頭部を包んでくれます。この2点から、VIVE Focus 3の装着感はVRヘッドセットの中でも特に良好で、はじめてVRヘッドセットを装着する人にも、長時間装着するような人にも、使い心地のよいヘッドセットとなっています。
特徴3:運用上の利便性の高さ
メンテナンス性の高さも、VIVE Focus 3の売りのひとつです。顔に密接するフロントクッション(写真左下)とリアクッション(写真中央)は、マグネット式でかんたんに着脱が可能で、取り外したものを掃除・消毒することも、汚れていないものに交換することも容易にできます。
バッテリーもかんたんに着脱が可能です。バッテリーの稼働時間は約2時間なのですが、バッテリーを複数用意することで、充電を待つことなく稼働させ続けることができます。なお、バッテリーの充電効率も相当に良好で、公式サイトによれば30分で50%まで充電可能とのことです。入れ替えたバッテリーで稼働させている間にフル充電まで完了可能でしょう。
ヘッドセット本体にも「クイックリリースボタン」というものが搭載されています(写真赤丸部分)。このボタンを押すと、ヘッドセットの締め付けが最大まで解放され、調整ダイヤルを回し戻すよりもはるかに早くヘッドセットを取り外すことができます。自分で扱うときはもちろんですが、とりわけVRヘッドセットに不慣れな人に体験してもらったあとに、外部から手早く取り外すことができるようになっています。
こうした「各パーツの交換が容易」「脱着そのものが容易」という点は、特に複数人でヘッドセットを使い回すような場面で、清潔感と稼働時間の担保につながります。デモアプリケーションの体験会などでその真価を発揮することでしょう。
なお、フェイスクッションと背面クッション、および交換用のバッテリーは、VIVE公式ストアにて別売アクセサリとして購入可能です。フェイスクッションと背面クッションはセットで6,600円(税込)、交換用バッテリーは11,000円(税込)で販売中です。
【VIVE Focus 3 マグネット式フェイス・背面クッション】
https://htcvive.jp/item/99H12234-00.html
【VIVE Focus 3 バッテリー】
https://htcvive.jp/item/99H12237-00.html
特徴4:PCVRもストリーミング可能
VIVE Focus 3に対応したアプリケーションは「VIVE Business AppStore」にて入手が可能です。しかしここから入手する以外に、「VIVE Business ストリーミング」という機能を用いることで、PCのVRコンテンツをVIVE Focus 3へストリーミングすることが可能です。Oculus Quest 2の「Oculus Link」「Oculus Air Link」に相当する機能で、有線/無線どちらにも対応しているのが特徴です。
本機能を用いることで、まだ「VIVE Business AppStore」にラインナップしていないVRコンテンツをプレイすることが可能となります。2021年8月4日時点では、まだ「VIVE Business AppStore」には「Beat Saber」や「VRChat」のような定番VRタイトルが出ていない状況ですが、「VIVE Business ストリーミング」によってこれを補完することができます。また、無線ストリーミングを実施することで、これまで有線接続のヘッドセットで体験していたVRコンテンツをワイヤレスで体験することも可能です。ワイヤレスなVRは自由度が高く、これまで遊びつくしたVRゲームでもまた違ったプレイ体験が味わえます。加えてVIVE Focus 3は、上述のとおり装着感が快適な一台です。
「VIVE Business ストリーミング」を実行するには、PC側にSteamVRと専用クライアントソフトウェアのインストールが必要です。VIVE Focus 3本体側でも、ソフトウェアアップデートと「VIVE Business ストリーミング」アプリのインストール、そしてアクティベーションまで完了したHTCアカウントでのログインが事前に必要となります。
有線接続の場合は、PCとVIVE Focus 3をUSB Type-C 3.0ケーブルで接続します。PC側にUSB3.0ポートが必要となるため、事前に確認しておきましょう。また、ケーブルの長さは最低でも3mはほしいところです。
無線接続の場合は、5GHz対応のWi-Fiルーターが必要となります。そして、PCとルーターをイーサーネットケーブルで直接接続する必要があることも留意が必要です。この状態でPCと同じWi-FiへVIVE Focus 3を接続すれば、無線ストリーミングが可能となります。
上記のように、特に無線ストリーミングは設備面でのハードルがやや高めですが、ストリーミングが始まればヘッドセットをかぶったままSteamVRのダッシュボードを呼び出し、体験したいVRコンテンツを選択することができます。
なお、有線接続の際に用いるケーブルは、公式から「VIVE ストリーミングケーブル」というものが11,000円(税込)で販売されています。USB-C 3.2 Gen 2規格、長さ5m、L字コネクタ採用など、有線接続に適した仕様となってはいますが、動作そのものは規格さえ満たしていればサードパーティ製のものでも問題ありません(筆者もAnker製USB Type-C 3.0ケーブルにて動作を確認しています)。
【公式サポートページ】
https://www.vive.com/jp/support/vbs/category_howto/vive-business-streaming.html
【VIVE ストリーミングケーブル】
https://htcvive.jp/item/99H12248-00.html
特徴5:豊富なビジネス向けソリューション
VIVE Focus 3は法人向けVRヘッドセットとして発売されており、法人向けのシステムやアプリケーションが多く提供されているのが特徴です。以下にていくつか紹介します。
キオスクモード
「キオスクモード」とは、ユーザーがアクセス可能なアプリを制限した状態で動作させるモードです。たとえば、デモアプリ体験会を開催する際にデモアプリ以外アクセスできないようにする、子どもに遊ばせる際に不適切なアプリへアクセスできないようにする、といった制御を行うことができます。
キオスクモード中に表示可能なアプリの設定はVIVE Focus 3本体から簡単に実行可能で、キオスクモードの開始/終了自体も「電源ボタンの長押し」で容易に切り替えが可能です。複雑な手続き不要で、運用シーンごとにデバイスごと最適化できるのがメリットです。
【公式サポートページ】
https://business.vive.com/jp/support/vive-focus/category_howto/what-is-kiosk-mode---main.html
VIVEマネージャー
「VIVEマネージャー」は、VIVE Focus 3向けの管理用スマートフォン向けアプリです。ヘッドセットのセットアップ、アプリケーションの管理などを、ヘッドセットをかぶることなく実施可能です。
とりわけ初期セットアップにおいては、プレイエリアの設定まではVIVEマネージャーだけで済ませることができます。Wi-Fi設定などはどうしてもヘッドセット内からだと(主にキーボード操作が)時間がかかるため、これを一気に楽にしてくれるのは嬉しいところです。システムアップデートも本アプリ側から実行可能で、VRヘッドセット管理における手のかゆいところをカバーしてくれます。
【公式サポートページ】
https://business.vive.com/jp/support/focus3/category_howto/what-is-vive-manager.html
VIVE Sync
「VIVE Sync」は、ビジネス向けのVRコラボレーションアプリです。2020年にVIVEヘッドセット向けにリリースされたアプリで、VIVE Focus 3にもデフォルトで対応しています。
バーチャル空間上に作成された会議スペースへ、各々が作成したアバターで参加し、会話はもちろん画像や動画ファイル、PowerPointのスライドや3Dデータまで持ち込める、多機能なVRリモート会議ツールです。ジェスチャー機能も用意されており、なかには「他ユーザーとの握手」が組み込まれているのも特徴です。
VRリモート会議ツールとしては、VIVE Focus 3のスペックと解像度も相まって、体験の質はなかなかに良好です。実際のアプリの映像もいくつか公開されているので、気になった方はご覧ください。
https://www.youtube.com/watch?v=83m0ZbxiNdc
https://www.youtube.com/watch?v=UezGIzPL4-c
【公式サイト】
https://sync.vive.com/
VIVE Business
VIVE Focus 3の発表にあわせて、複数の法人向けソリューション「VIVE Business」も合わせて発表されています。発表されているソリューションには次のようなものがあります。
VIVE Businessデバイスマネジメントシステム
いわゆるMDM(Mobile Device Management)で、複数のVIVE Focus 3に一括でアプリインストールやシステムアップデートを適用し、各デバイスの状態を一括で確認する……といったことが可能なソリューションです。「複数台にコンテンツを設定して使ってもらう」という運用が想定される場合に、管理面での手助けとなるといえるでしょう。
【公式サイト】
https://business.vive.com/jp/solutions/dms/
VIVE Business AppStore
VIVE Focus 3でも利用可能なアプリケーションストアです。2021年8/4現在展開中のアプリケーションは34タイトルとやや少なめですが、ビジネス用、教育用、そしてエンターテイメント用と、ジャンル別に探せるようになっています。また、アプリケーションによっては、ストアから見積り依頼を行うことも可能です。
【公式サイト】
https://business.vive.com/appstore
ビジネス向け用途の中でも、トレーニング用途に特化したソリューションです。複数台のヘッドセットに対し、トレーニングコンテンツの配信、開始、終了を一括で管理し、また各ヘッドセット内の映像を確認することも可能とのことです。VRによる業務研修は昨今導入事例が増えつつありますが、これを実施する上で管理面での補助を担ってくれるソリューションです。
【公式サイト】
https://business.vive.com/jp/solutions/training/
現時点におけるVIVE Focus 3は、ハイレベルな解像度と装着感を、ビジネス向けに活用することを売りにしたVRヘッドセットと言えます。メンテナンス性の高さや、各種ビジネス向けソリューションによるデバイス管理など、特に複数台のデバイスを多人数間で運用するような場面で活きる特徴が多く、逆に個人利用の場合はスペックに対して「割高」というのが現状です。
まだまだコンテンツ展開などは足りていないものの、「高解像度と絶妙な装着感の良さが共存した一体型VRヘッドセット」という無二の特徴も備わっています。これからVIVE Focus 3に最適化されたコンテンツが増えていくことで、このヘッドセット自体の評価も変動していくものと思われます。
様々なビジネス向けソリューションも含め、「一度さわらないとわからない」ことが多いため、ぜひ一度手にとって体験してほしいデバイスでもあります。もしご興味が湧いた方は、アストネスにて1週間16,980円からVIVE Focus 3のレンタルが可能です。開発者の方や、ビジネスへの導入を検討されている方はもちろん、ハイエンドな一体型VRヘッドセットが気になるエンドユーザーの方も、ぜひアストネスのレンタルをご利用ください!
執筆紹介:浅田カズラ