本記事では、VRで飛行体験ができる MSFS(Microsoft Flight Simulator)の魅力についてご紹介いたします。VRならではの没入感はもちろん、実際にMicrosoftが提供する地図データを駆使した現実さながらの都市の上空を飛行するといった、VRだからこそ楽しめるリアリティかつ臨場感を実際にVRで飛行体験したレビューを踏まえてお伝えいたします。
〈 目次 〉
1. MSFSの概要
- MSFSとは
- 2000TBの地球
- 使用するVRとPC
2. MSFSの遊び方
- 「遊覧飛行」と「計器飛行」
2 - 1. 「遊覧飛行」で使う機体について
┗ VR遊覧飛行〈 東京編 〉
┗ VR遊覧飛行〈 ヴェネツィア編 〉
2 - 2. 「計器飛行」で使う機体について
┗ VR計器飛行〈 羽田22 LDAアプローチ 〉
┗ VR計器飛行〈 福岡34 サークリングアプローチ 〉
3. MSFSを遊ぶVR機器の選び方
- MSFSのためのVRヘッドセット選び
- コントローラーについて
4. まとめ
- The Sky is calling / 空が呼んでいる
1. MSFSの概要
MSFS(Microsoft Flight Simulator)は、1979年に米企業がAppleⅡ向けに開発した”Flight Simulator”をMicrosoftが買収したシリーズで、フライトシミュレーター界を代表するものです。2006年発売のFlight Simulator X(FSX)を最後に開発チームが解散したため長らく新作が出なかったのですが、2020年、新たな開発チームによって開発・発売されたのがMicrosoft Flight Simulator、通称『MSFS2020』です。
MSFS2020の凄さ、それはなんと言っても『2000TBを超えるデータで表現される地球』でしょう。MSFSのマップには、Bing Maps(Microsoftが提供する地図サービス)に使用されている情報(地形・建物・海岸線・河川など)が反映されています。
実際このデータの出来がどうなのかは、映像で見てもらったほうが良いですね。
この地球のデータはトータル2PB、つまり2000TBを超えるそうです。当然、これをそれぞれのPCに入れておくことなんて出来ませんから、プレイ中にMicrosoftのサーバーから順次送られてくるわけです。
普通こういうサーバーが必要なストリーミング系のサービスは、月額課金制だったりするのですが…Microsoftは大規模クラウドのAzureを自前で抱えるだけあって、なんと7450円の買い切りです。Xbox Game PassにもMSFSは入っているので、2021年6月現在であれば、1ヶ月100円で遊べてしまいます。
更に言えば100円のGamePassが有効なうちにMSFSを買うと2割引されます。正直、大赤字になるんじゃないかと心配になるレベルの激安価格です。
送られてくるのはマップのデータだけではありません。なんとMSFSはリアルタイムな気象、気流、航空機の飛行情報までもが配信されます。そのため、曇りの日に自宅の最寄りの飛行場から飛べば曇り、晴れていれば晴れ、空港から離陸準備してる最中、『現実で飛んでいる飛行機が目の前の滑走路に侵入してきて待たされる』なんて事も。
そんなMSFS、なんとVRで遊べちゃうんです。
MSFSで飛行機を飛ばすとき、必ず計器類を確認しなければなりません。VRで飛ばす場合、解像度の低いHMD(ヘッドマウントディスプレイ)を使うと計器類がうまく視認できない場合があります。これを避けるために、今回はVR機器としてはかなり解像度が高く、フライトシムに向いているとされる HP Reverb G2 を使用しています。
今回のレビューでHP Reverb G2 を動作させるPCスペックは以下のとおりです。
CPU |
AMD Ryzen 7 3700X |
メインメモリ |
DDR4-2666 8GB×4 32GB |
GPU |
Nvidia Geforce RTX3060 12GB |
ストレージ |
Nvme 1TB以上 |
内部解像度、及び画質設定等はMSFSが性能に応じて自動で設定したものを使います。ちなみに内部解像度は80%でした。
MSFSを遊ぶ時に気をつけるべきことが一つ。それはマップデータの2000TBもさることながらPC側もストレージの容量を200GB近く使用すること、それもSSDを必要とすることです。その上MSFSのダウンロードはかなりの時間を要し、購入してから遊べるようになるまで半日掛かることも珍しくありません。備えましょう。
2. MSFSの遊び方
MSFSの遊び方は2つに大別されます。
1つ目は『遊覧飛行』。フライトシムや航空機に詳しい方には『VFR』と言ったほうが正確に伝わりますね。要するに景色を見て楽しむための飛行です。管制塔の小言は無視して自由に飛びましょう。当然墜落させてもいいです。だって、誰にも迷惑はかからないのですから。
2つ目は『計器飛行』。いわゆる『IFR』です。こちらは主に旅客機を使い、管制塔の指示や事前に設定されたルートや空域のルールに従いながら、出発地の空港から目的地の空港まで安全に飛行することを目的にします。今作のMSFS2020は全体的に『遊覧飛行』向きに作られています。景色が今までのフライトシムとは比較にならないくらい最高という点もありますが、旅客機の挙動がよろしくないという問題もあります。但しこれには解決策があるので、後々紹介します。
2 - 1. 「遊覧飛行」で使う機体について
今回の遊覧飛行で使う機体は、MSFSに最初から入っている『ICON A5』です。
わずか490kgの機体に100Hpのエンジンを搭載し、最大2名の乗員を乗せることが出来る、水陸両用軽飛行機です。最高速度も176km/hと軽飛行機としても遅めです(軽飛行機の代名詞セスナ172の最高速度は233km/h)。
今回この機体を選んだのは、単純に『視界が広くて計器が見やすい』からです。MSFSでもセスナ機を飛行させることはできますが、セスナは機体設計が古いため計器類が見にくいです。
ICON A5の計器構成・ナビはかなり自動車に似ており、ナビにはかつてカーナビを販売していたガーミン社のaera 796が搭載されています。欠点は自動操縦がないことですが、VRでプレイする場合は、慣れてくると計器を余り見ずとも飛べるようになります。
ちなみに実機では、2021年に追加された上位モデルでGarmin G3X Touchのナビが採用され自動操縦が出来るようになったとか。実機では、シーラス社のパラシュートが搭載可能(米国では認証の都合で標準装備)で、もし主翼が破損しても機体全体を安全に下ろすことができるそうです(MSFSでは未実装)。2020年時点での価格は36万ドル。飛行時間わずか20時間で取得できるLSAライセンス機であることも相まって比較的手軽な航空機と言えます。
記事を読んでいる方の何割かは東京に住んでいたり仕事場が東京だという方だと思いますが、その東京もMSFSではフォトグラメトリによって忠実に再現されています。
(フォトグラメトリ:複数の写真・座標・角度情報などから3Dモデルを自動生成するもの。Goolgeマップの3D表示はフォトグラメトリにより作成されている。)
調布飛行場から離陸して遊覧飛行する動画を撮ってみました。かなり画質が悪くてフレームレートが低いです。長々見てると酔ってしまうかもしれないのでご注意下さい。これはWIndows MRの仕様の都合でOBS(Open Broadcaster Software)で直接撮影できないのが影響しています。実際にVRでプレイする際は、より高解像度で、フレームレートが高く綺麗に見れます。
別のテスト飛行中、東京上空を飛んでいたときのこと。なんと旅客機が飛んできました。
この時は、現実で羽田空港が運良く「16L/R」運用、いわゆる「羽田新ルート」だったようで、都心部上空を旅客機が通過していく様子を見ることができました。
今度はヴェネツィアを遊覧飛行です。
相変わらず動画の画質が悪いですが、残念ながら仕様です。SteamVRの機種(Valve IndexやVive Pro2)ならもっと綺麗に撮影できるのですが…
2 - 2. 「計器飛行」で使う機体について
IFR(計器飛行方式)で使う機体は、標準搭載の「Airbus A320neo」を有志が改良した『Fly by Wire A32NX』です。
このA32NXは、現在MSFS内のマーケットプレイスから無料でダウンロードできます。MSFSに入っている旅客機、A320neo、B787、B747はどれも挙動がかなり怪しいのですが、A320だけはこのA32NXのお陰で、かなりリアルな飛ばし方をすることが出来ます。
LDAアプローチというのは、『滑走路とは違う向きに飛んで高度を落としていき、ある一定の場所になったら向きを変えて滑走路に侵入する』という方式です。
上図は、国交省が発行しているアプローチチャートで、ルートの方位・周波数・高度・着陸やり直し時のルートなどが書かれています。日本では羽田空港の南風運用時に、視界が良好な場合にのみ見ることが出来ます。設備、機材的にもっと安全で、自動着陸もできるILSがちゃんと使えるのに何故このように面倒な方法を取るかと言えば、騒音問題を避けるために可能な限り東京湾上を飛ばすためでもあります。
そして上図LDAアプローチは旋回する直前に滑走路を視認していなければならず旋回を開始した後は目視で、図面の通りのルートで滑走路に下ろす必要があります。普通の画面でのフライトシムは旋回しながらの着陸は位置関係が変化する都合上、やりにくいのですがこれがVRだと実機同様視点移動が簡単で、更に距離感もつかみやすいのでVRでやるのがおすすめです。
ちなみに標準状態では羽田空港のLDAアプローチは正常に機能しません。別途、有志が作成している無料シーナリーを導入してください。
https://flightsim.to/file/12425/rjtt-tokyo-international-airport-revised-based-on-the-new-new-aerodrome-chart
サークリングアプローチは、風向きの都合で特定の方向からしか着陸できない場合に、『滑走路の着陸する反対側に正対し、空港の左右どちらかの脇を通過した上で180度ターンして戻ってくる』アプローチ方法です。
この方法は、まず反対方向で正対した時点で滑走路を視認しなければならず、その後も全て目視でルートを決めなければなりません。当然、距離感や位置関係を正確に把握していないと難しいアプローチのため、VRでないとなかなかやりにくいものです。
日本で有名なのは伊丹と福岡ですが、シーナリーの都合で福岡空港のほうがやりやすいので今回は福岡空港を選びました。福岡空港のサークリングアプローチはなんと市街地上空、福岡市の中心部である天神地区の真上を通過していきます。こんな場所を飛んでいくため、ボケっとしていると牛頸(うしくび)辺りの山に激突します。
(福岡市の天神地区からわずか2キロの西公園で2020年4月撮影)
福岡空港サークリングアプローチの重要ポイントは2箇所。
一つは博多総合車両所。かなり広く遠くからも目立つため目印としてよく使われます。天神上空を通過したらこれのある方向に飛んでいきます。
もう一つはNHK春日ラジオ放送所のアンテナ。高さ149.5mもあり、空からだとかなり目立ちます。このの真横を通過したら左に旋回を始めるというパイロットが多いそうです。これらのランドマークは標準状態では表示されないため、有志が作った福岡空港関連シーナリーを別途入れる必要があります。無料で導入することができます。
https://flightsim.to/file/6585/fukuoka-rw34-scenery
このようなランドマークが自然に目視でき、旋回と侵入が容易にできるのがVRならではの利点です。ただVR向きの飛行というのはやはりどうしても視点移動が多くなりがちなので、あまり動画には向いていないですね…
3. MSFSを遊ぶVR機器の選び方
一番良いのはやはり HP Reverb G2 でしょう。
なにせ十分な解像度で計器類が見えますから。グラフィックボードの性能にもよりますが、不足していたら内部解像度を落とせばよいだけです。さらに、MSFSに実質ネイティブ対応であるため余分なソフトを介す必要がありません。Oculus や Vive、Index だと Oculusソフトウェアや SteamVR が間に挟まります。欠点は録画がやりにくい事くらいです。
次におすすめする機種は Oculus Quest 2 です。
MSFSはVR用のコントローラーを使用しないため、アウトサイドイン方式(※)である必要がほぼありません。パソコンと無線接続することも可能(有線接続する場合は、Oculus Link対応ケーブルが必要)で、解像度も高く、何よりも手頃な価格のOculus Quest 2 はかなりフライトシム向けだと思います。グラフィックボードの性能に不安がある方にとってもおすすめできる機種です。
※アウトサイドイン方式:VRヘッドセット側にカメラやセンサーがついており、壁や天井にベースステーションと呼ばれるトラッキング用センサーなどを設置する必要がない方式のこと。
MSFSは、特にVRで遊ぶ場合は "必ずコントローラーが必要 " です。特にフライト専用のコントローラーである必要はありません。各VRのコントローラーは使え無くはないですが、基本的に使われません。VRモード時でもスイッチ類はマウスで操作します。
「Xbox360/One/SeriesX/SeriesS用の所謂「箱コン」若しくはその互換コントローラー」「PlayStation3/4/5用の「DualShock」系若しくはその互換コントローラー」最低でもこの2系統のうちどちらかは持っていないと残念ながら遊べません。
ちなみに新規でコントローラーを買う場合、MSFSに限らず、PCゲームはXboxのコントローラーを基準or最適化している場合がほとんどなので、Xboxコントローラーの方をおすすめします。なにせ”Microsoft”のコントローラーですからね。
フライト専用のコントローラーもありますが、やはり高いですしハマってから買えば十分です。まずは普通のゲーム用コントローラーで遊びましょう。
4. まとめ
これらの他にもMSFSと、それをVRでプレイすることにはいろんな魅力があります。
個人的に気に入っているのは空が凄く綺麗な点です。リアルかどうかはさておき、
こちらの画像は「Live Weather」機能を使っていた時に撮影した一枚。
こちらは東京上空で旋回したときの一枚。
旅客機なら、とりあえず飛行管理コンピュータ(FMC)にルートを入れておけば適切に飛行してくれるのでゆっくり、景色を見ながら飛行することも出来ます。当然、景色を見るならVRが最高。雰囲気が段違いです。
自分が好きなのは羽田に24時過ぎた頃、視界が良好な場合に行う場合がある『23RNAVアプローチ』。(現実において)夜間出発ができる北九州や関空から回送、若しくは旅客を乗せず貨物だけ運ぶ”ベリー便”だとか、そういうつもりで夜景を見下ろしながら飛行して、最後は東京の夜景を空港の向こうに見ながら、東京湾の海上を飛んで着陸するというのもまた雰囲気があって良いものです。
他にも、季節が限られますがLiveWeather機能を使って台風の中に突っ込みに行くというのがちょっとしたお祭りみたいな感じで人が集まることもあります。ちなみに、これを実際に実機でやってるアメリカ海洋大気庁(NOAA)の所謂「ハリケーンハンター』の機体が『LiveTraffic』機能でMSFSにも出てくることがあります。
『第四エンジンに愛着はないな!?』で分かる人もいるかもしれませんが。(NOAAは機体単位でコールサインを割り当てているため、画像に写っているNOAA42はまさしく1989年にエンジン喪失事故を起こしたP-3 N42RF。)
また、MSFSは月と太陽を比較的高精度な再現機能もあります。なんと日食が見ることも可能です。ただし、時間と場所を現実通り精密に再現出来る程の精度はないらしく、どこでMSFS内の皆既日食が見れるかは不明なのが欠点です。
今後も、北欧地域のアップデートが予定されているなど、2ヶ月に一回のペースでフォトグラメトリで再現される都市が増える予定で、2021年秋には『トップガン マーヴェリック』仕様のF/A-18Eが追加されるようです。MSFSは全地球を舞台にしているため、他にも紹介しきれないほど多くの要素で出来ている『ゲームではない何か』と言えます。
是非一度、この空を飛んでみてください。
筆者紹介
そにっく885( Twitter:そにっく885@VRC )
Half-Lifeを11年待たされた人。 忍耐2年目。横須賀美術館をVRで作ってる人。 名前の由来がJR九州の鉄道車両及び種別名なので改名しなきゃいけない気がするけどやるタイミングを見失ってる人。
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